熟年離婚と年金分割

熟年離婚の場合、特に問題になるのが年金の問題です。

 

公的な年金には、国民年金と厚生年金があります。将来にわたって自分がいくら年金をもらえるかは、離婚後の生活の将来設計を行うためにも非常に重要な点です。

 

厚生年金を受け取ることができるのは、基本的に社会保険に加入している被保険者のみであるため、夫が働いて、妻は家事に専念するといった家庭の場合、妻が受け取ることのできる厚生年金はごくわずかだというケースが多く見られます。

 

本記事では離婚問題に注力している弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が、熟年離婚についての基本的な知識について、年金分割と関連させながら解説致します。

熟年離婚の原因とは?

熟年離婚、すなわち婚姻期間の長い夫婦の離婚については、その原因に

「子どものひとり立ち」

「配偶者の定年退職」

といった、それまでの生活や相手との関わり方を大きく変化させる事情が引き金となる傾向にあることが特徴といえます。

 

もちろん不倫や価値観の不一致といった、他の離婚事案と同じような原因があるケースもありますが、「子どもが大きくなるまでは我慢していた」

「定年退職後に夫(妻)が家にいる時間が長くなり耐えられなくなった」

ということで年齢を重ねてからの離婚に踏み切る事案が多いです。

 

熟年離婚のメリット・デメリット

 熟年離婚によるメリットとしては、相手方との結婚生活がもたらす悩みから解放されることが挙げられます。

特に熟年離婚のケースでは上述の通り子どももすでに独立しているケースも多いので、離婚をきっかけにその後の人生を自分らしく過ごしていけるという点が重要視されます。

 

 他方で、特に相手と過ごしてきた期間の長い熟年離婚では、長年仕事より家庭を優先してきたことによる経済的な問題に直面する、一人で暮らす孤独感を感じる、といったデメリットも挙げられます。

 

熟年離婚のメリット・デメリットについてはこちらの記事もご覧ください

>>『熟年離婚をお考えの方へ|熟年離婚にまつわる疑問にお答えします』

 

熟年離婚のお金について

(1)熟年離婚の財産分与:退職金が争点になるケースについて

 退職金には給与の後払いという性質があることから、夫婦の協力により築かれた財産として退職金の算定期間(勤続期間)のうち婚姻期間(離婚を前提に別居していた期間を除く)に対応する額については財産分与の対象になる場合があります。

 

そのため、婚姻期間の長い熟年離婚の事案では退職金の財産分与が争点になるケースが多いです。

 

 中でも、基準時(原則として別居開始時)において配偶者がまだ定年を迎えておらず将来の退職金債権がある場合には注意が必要です。

 

すなわち、すでに支払われ預貯金の一部になっているなどして手元にある退職金であれば基本的に問題なく財産分与の対象となるのですが、将来の退職金については

退職金の支払いが受領できる蓋然性が高い

ときに限り財産分与の対象になるからです。

 

この蓋然性の有無は個別の事案ごとに、勤続期間や転職歴、退職金が支払われるまでの期間、勤務先の退職金規定の有無、勤務先の経営状況などを総合的に考慮して判断されます。

 

退職金の財産分与についてはこちらの記事もご覧ください

>>『退職金の財産分与』

財産分与を弁護士に相談するメリットについてはこちらもご覧ください

>>『財産分与を弁護士に依頼するメリット』

(2)年金制度の変更~平成20年から制度が変わりました~

離婚における年金問題については平成19年4月と平成20年4月に制度が変更されています。

 

平成19年4月より前は、収入が少ない側(多くは妻)が配偶者に厚生年金を考慮した請求を行い、配偶者が受け取る年金から支払うという形しかとれませんでしたが、

平成19年4月の制度変更により、夫婦の話し合いや家庭裁判所が決めた割合で、収入が少ない側も自分の年金として直接支払いを受けられるようになりました。

 

この制度は、平成20年4月からの制度と区別するために、「合意分割制度」と呼ばれています。

分割割合は話し合いによって決めますが、最大2分の1までです。

 

なお、話し合いで合意が得られない場合には、家庭裁判所で分割割合を決めることができます。

 

 

さらに、平成20年4月の制度変更では、妻(夫)が専業主婦(専業主夫)だった期間は、夫(妻)の厚生年金の保険納付実績を自動的に2分の1に分割できるようになりました。

 

この分割方法は前述の「合意分割制度」と区別するために、「3号分割制度」と呼ばれています。

当事者間で分割割合の合意をする必要がない(家庭裁判所で分割割合を決めてもらう必要もありません)ので、年金分割の処理が簡便です。

夫(妻)が要求しても2分の1より割合を下げることはできません。

 

ただし、この3号分割制度の対象となるのは、平成20年4月以降の専業主婦期間のみになります。

 

そのため、婚姻期間の長い熟年離婚の事案では、平成20年3月以前までの期間について以前の「合意分割制度」に基づいて処理する必要があるケースもあります。

 

平成20年3月までの年金分割の方法については夫婦間で話し合い、もし合意が得られなければ家庭裁判所に分割割合の決定を求めることになります。

(3)共働き夫婦の年金分割・専業主婦(専業主夫)の年金分割

 年金分割は離婚した夫婦が婚姻期間中に加入していた厚生年金保険料給付実績のうち報酬比例部分が多い方から少ない方(多くは夫から妻)へ分割するものですので、共働きであっても収入が少ない側から年金分割を求めることが出来る場合があります。

 

多くは合意分割を検討することになりますが、例えば妻がパートタイムで勤務しており夫の扶養に入っていた場合であれば3号分割の対象となる可能性もあります。

 

専業主婦(専業主夫)であれば、上述の通り平成20年3月末を境に合意分割か3号分割かが異なりますので、まずは婚姻期間を確認のうえ、それぞれの手続をとることになります。

 

婚姻期間中に専業主婦(専業主夫)であった期間と共働きの期間が混在している場合は、それぞれの期間について上記の検討をすることになります。

 

(4)年金分割の手続

合意分割の請求は、離婚後に相手方とともに標準報酬改定請求書や分割内容についての合意書を作成し、婚姻期間の分かる戸籍謄本等を添付して年金事務所に提出することで行います。

 

相手の同意が前提となる手続のため、もし相手方が手続に協力してくれないときは家庭裁判所に年金分割調停を申し立てる必要があります。

 

調停でも同意に至らなければ審判手続に移行します。調停・審判を経て作成された調停調書(または審判書)を用いて手続する場合は、一人で進めることが可能です。

 

これに対して3号分割の請求には配偶者の同意が必要ありませんので、一人で年金事務所に行って手続することが可能です。

 

なお、合意分割の請求をした場合で、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割の請求と同時に3号分割の請求もあったとみなされ処理されます。

 

年金分割の手続には時効があり、離婚翌日から2年を経過すると請求できなくなってしまいますので注意しましょう。

 

(5)別居中、離婚後の生活費をどう確保するか

 夫(妻)と比べて収入が少ない、または専業主婦(専業主夫)である、といった事情で、熟年離婚を考えていても別居中や離婚後の生活に不安を感じて踏みとどまっている方も多いように思います。

① 婚姻費用の請求

 そのような方がまず検討すべきは、別居中の「婚姻費用」の支払いを受けることです。

 

婚姻費用とは婚姻期間中の夫婦の別居中の生活費を指し、収入が少ない側が配偶者に請求できるものです。

婚姻費用の額については、まずは夫婦間の協議で決めますが、相手方としては

離婚するつもりで別居中の妻(夫)にお金を払いたくない

と考えることも多く、中々解決しないケースもあります。

そうしたときには家庭裁判所の調停・審判で決定することになります。

② 扶養的財産分与

 また、専業主婦(専業主夫)期間が長く離婚後すぐに十分な収入を確保できないようなケースであれば「扶養的財産分与」が認められる可能性があります。

 

一般に離婚事案で行われる財産分与の多くは婚姻期間中の財産を平等に分け合う「清算的財産分与」と呼ばれる性質をもつものですが、

ただ均等に分けるだけでは生活が困難になり、かつ相手に扶養できるだけの収入がある場合には、収入が少ない側への援助の趣旨で清算的財産分与の「2分の1ずつ」の原則から変更してより多くの財産を受け取れるようにする「扶養的財産分与」が認められることがあります。

 

熟年離婚に関連する争点(財産分与、年金分割、婚姻費用)についてはこちらの記事もご覧ください

>>『熟年離婚をお考えの方へ|熟年離婚にまつわる疑問にお答えします』

>>『婚姻費用について』

 

熟年離婚の準備と手続

(1)熟年離婚の準備

 熟年離婚では子供が成長していることが多く親権や養育費が問題になりづらい代わりに財産分与や年金分割が大きな争点となることが多いです。

 

また、別居時にはどれだけ婚姻費用を請求できるかといった点も重要な検討事項です。

 

そこで、なるべく別居前から、双方の収入やそれぞれの名義の財産の洗い出しを進めておくとよいでしょう。

 

例えば、預金通帳、給与や賞与の明細、保険証券、退職金規定、住宅ローンの償還表など、不動産や自動車の査定書といった資料は控えておくことが大切です。

 

相手方が協力してくれるとは限りませんし、最悪の場合は自分名義の財産を隠してしまう可能性もありますので、分からないことがあればこの段階で弁護士に相談し、アドバイスを受けると良いでしょう。

 

 そして、別居後・離婚後の自身の収入がどうなるかシミュレーションし、どこに住むか、どんな働き方をすべきか、といった生活設計を立てておくようにしましょう。

 

(2)熟年離婚の手続

 熟年離婚だからといって、手続面で一般的な離婚と異なることはありません。

 

 当事者の話し合いによる「協議離婚」で解決することが多いですが、相手方に離婚事態を拒否されている場合や離婚の条件面で合意できない点がある場合など、協議で解決しなければ家庭裁判所に調停を申し立てて調停委員を介した話し合いを行います。

 

ここで合意できれば「調停離婚」が成立しますが、調停でも合意が出来なければ審判手続に移行するか、改めて訴訟(裁判)を提起して裁判所に判断を下してもらうことになります。

 

訴訟で離婚請求が認められればいわゆる「裁判離婚」が成立します。なお調停を申し立てずにいきなり訴訟を起こすことは出来ません。

 

離婚の手続についてはこちらの記事もご覧ください

>>『離婚の種類(離婚の手続きの種類)』

 

熟年離婚を弁護士に相談するメリット

 熟年離婚のケースでは、婚姻期間の短い夫婦の離婚と比較して話し合うべきことが多くなって争点を整理しきれなかったり、共有財産の計算が複雑になったりと、協議の長期化をもたらす事情が絡んでくる傾向にあります。

 

また、長期間不満を溜め込んできた相手との協議自体に苦痛を感じたり、相手の性格をよく知るからこそ感情的なやりとりが増えてしまったりするケースも多いです。

 

弁護士にご依頼いただき代理人にたてておけば、夫婦間の感情的なぶつかり合いも最小限で済みますし、話し合うべきこと、主張すべきことを迅速に整理できることで、離婚の成立を早めることにつながります。

 

離婚問題をよく知り、そして交渉のプロである弁護士の助けでより有利な条件で離婚が成立すれば、新しい生活への第一歩を安心して踏み出せることと思います。

 

離婚問題は解決実績豊富な弁護士法人リブラ共同法律事務所にご相談ください

一口に「熟年離婚」といっても、その原因は婚姻期間が長いだけにそれぞれのご夫婦により様々です。

 

また、年齢を重ねてからの離婚は夫婦それぞれの将来の生活設計も大きく変えるものであり、協議を重ねても特に金銭面で中々折り合いがつかず合意に至りにくい傾向にあります。

 

熟年離婚をお考えでしたら、なるべくお早めに弁護士に相談いただき、必要な準備を進めていくことをお勧めいたします

 

弁護士法人リブラ共同法律事務所では、多数の離婚事件を解決してきた経験豊富な弁護士があなたをお助けいたします。

離婚後に後悔しないためにも、熟年離婚をお考えの方は、ぜひ当事務所へご相談ください。

 

監修者

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