年収1000万円を超える方の財産分与について

離婚をするにあたって、財産分与は多くの方が抱える重要な課題ですが、特に年収1000万円を超えるような高所得者の離婚の場合、様々な理由で財産分与が複雑になるケースがあります。
そこで本記事では、高所得者特有の財産分与の特徴や注意点、具体的な準備方法について、離婚問題に注力する弁護士法人リブラ共同法律事務所の弁護士が解説します。

 

財産分与とは?|基礎知識の確認

 

(1)財産分与とは

 

財産分与とは、婚姻中に築いた財産を離婚時に分配することを指します。
法律上は「夫婦の共有財産を公平に分ける」、つまり分与割合が2分の1とされることが基本です。この公平性の原則は、夫婦の収入差に関係なく適用されます。たとえ妻が専業主婦で夫の収入が圧倒的に高い場合でも、婚姻生活を通じた共同の貢献が評価されるため、分与割合に影響しません。

ただし、年収1000万円を超える高所得者の場合、分与の対象となる財産が多岐にわたり、その計算も複雑になります。

 

(2)財産分与の対象となる財産

財産分与の対象となるのは、婚姻中に夫婦が共同で築いた「共有財産」に限られます。)これに対し、婚姻前の貯金や、婚姻後でも夫婦のどちらかが相続や贈与によって取得した財産は「特有財産」と呼ばれ、財産分与の対象から外れることになります。

ただし、婚姻中に特有財産を活用して増えた部分は分与対象になる可能性があります。

 

(3)具体例

それぞれの財産が夫婦いずれの名義になっているかにかかわらず、離婚時の財産分与においてはその形成時期や用途が重要な判断材料となります。

例えば、以下のAさんが離婚する場合を考えてみましょう。

・Aさんの財産内訳: 不動産(5000万円)、預貯金(1000万円)、退職金見込額(2000万円) 合計8000万円
・婚姻期間: 25年
・上記の財産は婚姻期間中に築かれたものがほとんど

 

この場合、配偶者はAさんの全財産の半分にあたる4000万円を分与として受け取る可能性があります。

 

もし、配偶者自身の名義でも預貯金等の財産があり、それが婚姻期間中に形成されたものであれば、こちらも共有財産として分与の対象になるので、原則としてその2分の1が差し引かれた額の分与となります。

ただし、不動産が共有名義になっているか否か、退職金の評価時点、預貯金額の調査方法、不動産を売却するか否かなど、具体的に財産分与を進める際には確認すべき点が多く、また当事者間では双方が自分に有利な計算を持ち出すことでトラブルになりがちです。そのため、弁護士の専門的な判断を仰ぎながら協議を進めることが推奨されます。

 

高所得者の財産分与の特徴

 

(1) 財産の範囲が広い

所得の高い方は、現金(預貯金)や自宅不動産といった一般的な離婚で財産分与の対象となりうるもの以外にも投資用不動産や株式、投資信託、退職金、保険金など、多様な資産を有しているケースが多いです。

 

これらの評価額を正確に把握することが公平な財産分与を実現するために重要なポイントとなってきます。

 

(2)財産分与割合が調整される可能性がある

上述の通り、財産分与割合は夫婦の収入差に関わらず一般的に「2分の1」です。

 

本記事で主として取り上げている年収1000万円~程度の方の事案でもこの割合が変わることはほぼありません。

 

ただし、例えば医師や芸能人、プロスポーツ選手であるなど、個人的な技能によって高い所得を得ているような場合には、配偶者の財産分与割合が減らされる可能性があります。もっとも、どの程度財産分与割合を変更するかどうかはケースバイケースです。

もし「財産形成に貢献していないから」と一方的に主張されてもそのまま受け入れず妥当な割合を主張していくことが重要です。

 

(3)会社経営者の場合、自社株式や会社名義の財産が問題になる

自身で会社を経営して高い所得を得ている方の離婚にも特有の問題があります。
 

会社(法人)は個人とは別人格なので、会社名義の財産は原則として財産分与の対象ではありません。

 

ですが、細かく見ていくと例えば「節税目的で会社名義にしているが家族で乗っている車がある」「従業員を雇っておらず実質的には個人事業主である」など、会社名義の財産でも実質的に個人の財産として財産分与の対象になる場合や、同族会社で妻(夫)も会社の資産形成に貢献してきたため会社の財産が分与の対象になる場合などがあります。

 

また、中には財産分与を求められた側が自身の財産を会社名義に変えて財産分与額を減らそうとするケースもあるので注意する必要があります。

 

財産分与を有利に進めるために必要な準備や手続

 

(1)収入証明書や資産リストの作成

財産分与を進めるためには、まずは自身の収入や資産状況を正確に把握することが大切です。

配偶者に証拠として提示できるよう、以下の書類を用意しましょう。

 

(自身の収入・資産状況を証明する書類の例)
✅源泉徴収票
✅確定申告書
✅不動産登記簿
✅預貯金通帳のコピー
✅株式や投資信託の残高証明

 

(2)配偶者名義の財産調査(資産隠しに対する対策)

 

財産分与を求める手続においては、分与を求める側において配偶者が有する財産についても証明しなくてはなりません。

 

これに対して、相手が財産の開示を拒否するケースや分与額を減らそうと自身の財産を少なく見せかける、といういわゆる「資産隠し(財産隠し)」とみられる行動に出るケースがよくあります。

 

所得が高く多様な資産を有している相手の場合は資産隠しの手段やこちらの対応も複雑化する傾向にあり、粘り強く調査する必要があります。
配偶者名義の財産を調査する方法は、大きく分けて自力で行うものと裁判所を利用するものに分けられます。

 

【自分で調査する方法】
預貯金通帳や書類の確認
例えば、直接金融機関の窓口に行って「夫(妻)名義の口座があるか教えて欲しい」「夫(妻)名義の預金額を教えて欲しい」と依頼しても、本人以外にそうした情報が開示されることはありません。

 

そのためなるべく別居に踏み切る前に、配偶者の通帳や金融機関からの郵便物など金融資産に関する書類を探しておくようにしましょう。

書類があった際には金融機関名や支店名、口座の種類・番号・名義といった、口座を特定するための情報や婚姻時点や別居開始時点での残高、保険等の積立の有無、使途不明な引出しの有無、別口座への振替の有無などを確認しておきます。

✅オンラインでの調査
不動産登記情報など、オンラインでも資産について情報が得られる場合があります。

弁護士会照会
弁護士に協議や調停・訴訟対応などをご依頼いただいた場合には、代理人弁護士の所属する弁護士会を通して配偶者の職場や金融機関等に相手方の資産について回答を求めることが出来る制度を利用することが出来ます。

ただし一定の費用が掛かるほか、ある程度手掛かりを得て対象を絞り込んだうえで行わないと個人情報保護の観点から回答を拒否される可能性もあります。

 

【裁判所を利用する方法】
配偶者が財産の開示を拒む場合、調停手続や訴訟手続の過程で、調停委員や裁判官が相手に 財産の開示をするよう説得してくれることもあります。

それでも十分に開示されず資産隠しが疑われるような場合には、調査嘱託という手続を利用することが出来ます。

 

調査嘱託

調停や訴訟などの手続中に当事者が申し立てるもので、申立てを受けた裁判所が財産分与額を決定するために調査が必要だと判断すれば金融機関や勤務先等への問い合わせをしてくれる手続です。

 

これらの方法を適切に組み合わせることで、隠された財産を明らかにする可能性が高まります。専門的な対応が必要な場合は弁護士にご相談のうえ進めることをお勧めいたします。

 

高所得者の財産分与は弁護士にご相談ください

 

高所得者が離婚する(高所得者と離婚する)際の財産分与で損をしないためには財産を把握する段階、財産を評価する段階のいずれにおいても一般的なケース以上に慎重な対応を要します。

また、財産分与について争った際には弁護士会照会や調査嘱託といった方法を検討しなければならないケースも増える傾向にあります。

 

そこで、それぞれの手続の実務上の取り扱いを熟知し、それぞれのご家庭の事情に応じた最適な解決方法を提案できる弁護士に是非ご相談・ご依頼いただいたうえで進めていただきたいと思います。

 

弁護士法人リブラ共同法律事務所の初回無料相談

弁護士法人リブラ共同法律事務所では、離婚問題の経験豊富な弁護士が皆様の個別のご状況を伺い、最適な財産分与の進め方をご提案いたします。

初回相談は無料ですので、お一人で悩まず、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
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監修者

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